賃上げと外形標準課税

 

今日(平成26年10月19日)の日経新聞に、また外形標準課税に関する記事が出ていましたね。

賃上げを実施した企業については税負担を軽くする検討を始めた、という内容です。

外形標準課税については、以前にもこのブログで書きました。
(→「最近話題の外形標準課税とは?」
今回は、政府が検討しているとされる「外形標準課税の見直し案」の内容について、簡単に触れてみたいと思います。

 

 

■人件費と外形標準課税
外形標準課税の制度により課税の対象とする「付加価値」には、「報酬給与額」が含まれることを、以前にご説明しました。

この「報酬給与額」には、所得税法で給与所得として取り扱われる給与・賞与や諸手当、退職金等の人件費が該当します。

経済界は、外形標準課税の拡充については、「人件費が付加価値に含まれる外形標準課税の適用範囲拡大は、賃上げの流れに逆行する」と反対しています。政府は、この声に対応する形で「見直し案」の検討を始めたものと思われます。

 

 

■見直し案・その1
新聞記事によれば、見直し案は2つ挙げられています。

その1つが、「賃上げ前の給与総額をベースにする方法」です。

 

そもそも、「報酬給与額は、法人税の所得(連結法人の場合は連結所得)の計算上損金の額に算入される事業年度の報酬給与額に算入します。」とされています(東京都主税局 外形標準課税に関するQ&A)。

例えば、12月決算の会社であれば、1月分~12月分の人件費が原則として対象になります。

もし、その期の4月に賃上げを実施した場合には、1月分~3月分までの賃上げ前の人件費4月分~12月分の賃上げ後の人件費1年分として合計されます。

つまり、賃上げによる人件費の増加分も、付加価値額に含まれるものとして、税額計算のベースになります。
今回政府が検討しているとされる「賃上げ前の給与総額をベースにする方法」は、期中の賃上げによって当期の税額が増える影響を除こうとする意図でしょうか。

この方法は、給与総額の基準時期をどのように設定するかにもよりますが、賃上げによる税額増加の影響を抑える効果は限定的であり、つまり当期にはその分が課税されなくても翌期以降には課税される、といった結果になることが想定されます。

 

 

 

■収益の多くを給与に回している場合の税額軽減
見直し案の2つめは、「収益の多くを給与に回している企業の税負担を軽くする仕組みの拡充」とありますが、これは少しわかりにくいかもしれません。

 

まず、わが国の外形標準課税では、「収益配分額」という考え方があります。

企業が得た収益を、どのような形の付加価値へ配分しているか、というものです。その配分先は3つで、「報酬給与額」「純支払利子」「純支払賃借料」です。

 

「報酬給与額」は前述のとおり、一定の人件費が該当します。

「純支払利子」は、支払利子から受取利子を除いた金額です。

「純支払賃借料」は、土地や家屋に係る賃借料で、支払賃借料から受取賃借料を除いた金額です。例えば、企業が社宅を他から賃借して、それを社員に社宅として転貸しており、一定の社宅家賃を社員から徴収している場合などが想像しやすいかもしれません。

 

なお、外形標準課税における「付加価値」という場合には、これら3つに加えて「単年度損益」も含まれます。

そして、この「収益配分額」に占める「報酬給与額」の割合が大きい場合…具体的には70%を超えている場合には、付加価値額から一定額を控除して税負担を軽減する仕組みが、既にあります。

 

この一定額を「雇用安定控除額」といいます。

雇用安定控除額は、収益配分額の70%を報酬給与額から除いた金額になります。

といっても、ややこしいと思います。次に具体例を挙げてみます。

 

 

■雇用安定控除額の具体例
雇用安定控除額に係る具体例として、2つの事例を挙げてみます。

(事例A)
報酬給与額 :1,500
純支払利子 :300
純支払賃借料:400
単年度損益 :800

この事例では、収益配分額は2,200(1,500+300+400)になります。
報酬給与額(1,500)が収益配分額(2,200)に占める割合は68.2%で、70%を超えません。

従って、雇用安定控除額の適用はないことになります。
この事例での付加価値額は3,000になります。

 

(事例B)
次に、(事例A)をベースにしつつ、単年度損益500を報酬給与額に振り向けたケースとして、(事例B)を見てみます。
雇用安定控除額を考慮しない段階での付加価値は(事例A)と同じ3,000です。

報酬給与額 :2,000
純支払利子 :300
純支払賃借料:400
単年度損益 :300

収益配分額は、2,700(2,000+300+400)です。

報酬給与額(2,000)が収益配分額(2,700)に占める割合は74.1%で、70%を超えますね。

この場合は、雇用安定控除額の適用があり、一定額が付加価値から控除されます。
雇用安定控除額は、2,000-2,700×0.7=110 になります。
従って、この場合の付加価値額は、3,000-110=2,890 です。

(事例A)よりも、税額計算の対象になる付加価値額が減少していることがわかります。

 

 

■見直し案・その2
今回の見直し案は、この「雇用安定控除額」について、現行の基準である「収益配分額×70%」を「収益配分額×60%までハードルを下げるといった内容とのことです。

先ほどまでの説明によって、税額が軽減されるイメージをお分かりいただけたでしょうか。

 

 

■外形標準課税については、今後の動向にも注目を
経済産業省は、外形標準課税の拡充は賃上げだけではなく地方創生にも逆行するため、あくまでも反対という立場であるとのことです。

中小企業への適用については先送りされたようですが、外形標準課税そのものについては、しばらくの間は政府にとって重要な検討課題であり続けることでしょう。

その動向を気に留めておく必要がありそうです。

 

 

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